首都圏を中心に実現化が進む「マルチテナント型物流施設」構想とは?

2021.11.29物流・フルフィルメント
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国道16号エリアに面する千葉県流山市では外資系不動産ディベロッパーの日本GLP社が総延床面積約32万m2の「GLP流山プロジェクト構想」を掲げ、2018年2月にはマルチテナント型施設「GLP流山I」を竣工しました。国道16号線はアクセスが良好な地でありながら、これまで物流施設とは無縁でしたが、流山が物流を軸足に、大きく様変わりしようとしています。その背景には、自治体のバックアップがあります。

「物流タウン」構想で少子化対策


少子高齢化に伴い、多くの自治体が人口の頭打ちや減少を辿る中、流山市は地方政令都市と比肩する約2.5%の人口増を続けています。

2005年つくばエクスプレスの開通では流山市だけで「流山おおたかの森」「流山セントラルパーク」「つくばエクスプレス南流山」の3駅が新設されました。従来、流山市からの東京への通勤には、千葉県を迂回するアクセスしか選択肢はありませんでしたが、つくばエクスプレスに開業により、秋葉原駅まで20分台と都内へのアクセスが格段に向上しています。

その1年前の2004年、流山市では民間シンクタンク出身の井崎義治市長が開設したマーケティング課で、若い世代が心地良く過ごせる街づくりに注力を開始しました。DEWKs(共働き世代)を対象に「母になるなら、流山市」をキャッチフレーズに打ち出した結果、年間5,000名規模で人口が増加しています。

その波に乗ったのが大和ハウス工業です。流山市との連携で農地から物流施設への転用を開始、「第1種農地」からの農地転用許可を農林水産省関東農政局から取得、流山市での物流施設の開発に着手したのです。第1種農地とは10ヘクタール以上の規模の農地、土地改良事業等の対象となった農地等良好な営農条件を備えている地を指します。土地収用法対象事業の用途以外は原則不許可となっていましたが、大和ハウス工業は物流施設として日本で初めて取得。物流タウン構想へと、舵を切りました。

当該敷地は流山市唯一の広大な土地であり、全ての土地を有効に利用するための大規模開発として検討を重ねるうち、物流施設の開発、そして物流タウン構想こそ望ましいと結論づいた背景があります。

大和ハウス工業が工事を進める物流施設のこの敷地は、もともと240ヘクタールの水田地帯でした。約30年前、水田地帯の真ん中に、流山市と野田市を結ぶ有料道路ができたことで、一部の水はけが悪くなり、水田としての利用ができなくなりました。そこで流山市は、地権者と土地利用に関する協定を結び、有効利用への対策を講じました。

景観条例規制も緩和した流山市は、大和ハウス工業と手を組み、物流タウン構築による人口増に照準を絞りました。井崎義治市長はDPL流山Ⅰの竣工式後の囲み取材で、「大和ハウス工業と流山市のベクトルが一致した。水田地帯から、東洋1の物流タウンを目指したい」と意気込みを示しました。

流山市の県道5号線では、大和ハウス工業が6施設中1棟を完成し、2施設を開発するほか、日本GLPも全3棟開発のうち2棟を完成しています。全施設が出来上がると1万人の雇用ができる大型物流タウン構想ができあがります。

高齢化が押し寄せる春日部市で物流施設を誘致

流山市と同じベッドタウンの埼玉県春日部市は、2001年をピークとして人口が減少傾向にあります。高度成長期に団地とともに市街地整備が進みましたが、住民の高齢化の波が押し寄せ、2001年を境に人口減少が進行しています。

対策の一環で、春日部市は国道16号線(春日部野田バイパス)と古河バイパスが交差する「庄和エリア」で、条例の一部を変更する異例な措置をとりました。物流施設を誘致することで、産業の活性化を図ったのです。

庄和エリアは高速道路ICから5km以上離れている市街化調整区域に位置。そのため、流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流効率化法=物効法)の基準外となりますが、実質上の規制緩和が敢行されました。付近には、丸運や野口運輸倉庫の物流施設が点在するものの、物流とは縁遠いエリアでしたが、現在では物流施設の開発も進み、物流タウンに変わろうとしています。

2018年2月には東急不動産やユニファイド・インダストリアル、6月にシーアールイーが相次いで竣工。この先、2019年3月に住友商事、2021年5月に野村不動産が大型物流施設を竣工する計画です。今回の条例緩和により、春日部の当該エリアでは敷地面積約4万坪、賃貸用面積は約6万坪の物流施設が開発されます。

物流施設が、パート主婦雇用を促進


三井不動産も物流タウン形成に踏み出しました。千葉県市川市で同社が2016年9月に竣工した「MELP船橋I」は、京葉線・南船橋駅からは徒歩8分の徒歩圏内にあります。同社運営の商業施設「ららぽーとTOKYO-BAY」と目と鼻の先で、来客用駐車場も物流施設内に設置されています。

そこで近年、おもしろい動きが目立つようになりました。「ららぽーとTOKYO-BAY」で従事するパート女性が「MELP船橋I」への「転職」が目立つようになってきたのです。駅からの距離が変わらないなら、接客せずに仕事ができる物流センターで働こうという発想が背景にあるようです。

アメニティーが充実した大型物流施設は、ショッピングモール以上の雇用を生み出しています。「MELP船橋I」では現在1,200名の雇用を確保していますが、2021年秋には物流施設2棟と「ゲート棟」も開設、計21万坪の物流タウンを誕生させ、雇用は4,000名になる見通しです。

グランドデザイン目線の開発の必要性

外資系ディベロッパーのプロロジスは、国内最大の開発プロジェクトを兵庫県猪名川エリアで進めています。兵庫県と大阪府の県境、近畿地方のほぼ中央に位置する猪名川町が舞台です。阪神地域の最高峰・大野山や猪名川の源流などの豊かな自然を持つエリアで、「猪名川町産業拠点地区基本構想」に基づき、産業団地形成のため山を切り崩しました。

目的は企業誘致や雇用機会の創出による地域振興及び活性化。町有地を活用した民間事業者による産業団地を目指し、プロロジスが優先交渉権を取得しました。

2017年6月には造成工事起工式が執り行われ、マルチテナント型物流施設1棟とBTS(Build To Suit:入居予定テナントの要望に応じて建築された施設)型物流施設4棟からなる物流タウン(45万2,000m2)に着手、第1棟開発着手は2019年11月、 竣工は2021年を予定しています。

プロロジスには、物流タウン完成の暁には大幅な雇用を確保が期待されており、庫内作業の省力化を目指し、AIや最新鋭マテリアルハンドリングのトライアルを進めています。しかし、全自動化は莫大な初期コストがかかり、実現は難しいと見られます。雇用で足踏みをする可能性も十分にあるのです。

おわりに

土地の有効活用に物流タウンという選択肢があり、雇用面でも有効だという考え方が少しずつ、自治体などに広まっています。

しかし、今後、物流タウンには雇用面だけではなく、グランドデザインの考えも必要とされています。大型物流施設が林立する埼玉県三郷市の常磐道・三郷IC付近は、時間帯により渋滞が発生、トラックの輸配送に大きな影響を及ぼしているのです。

今後の物流タウンの進展にはグランドデザインの発想は欠かすことはできません。

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角田和樹
上場企業であるディーエムソリューションズ株式会社の物流関連サービスで15年間、営業やマーケティング、物流企画など様々なポジションを経験。 現在は物流・発送代行サービス「ウルロジ 」のマーケティング全体設計を担う。通販エキスパート検定1級・2級を保有し、実際に食品消費財のEC事業も運用。ECノウハウに対しても深い知見を持ち、物流事業者としてだけでなく、EC事業者の両面からnoteウェビナー等での情報発信を行う。