ハラール物流とは?日本の現状・取り組みと越境ECにおける課題
2025.03.29物流・フルフィルメント
イスラム圏への越境ECビジネスを展開する上で、避けて通れないのが「ハラール物流」です。イスラム法に基づいた商品の取り扱いは、越境ECでイスラム圏市場に参入する際の重要なカギとなります。日本でも訪日ムスリム観光客の増加やASEAN諸国への輸出拡大を背景に、対応が進んでいます。
この記事では、ハラール物流の基礎知識や日本の現状、ASEAN諸国の対応などを解説します。
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目次
ハラールとは?
農林水産省 輸出・国際局ハラールチーム「ハラールに関する基礎情報」によると、ハラールは”イスラム法によって「許されたもの」”です。単に食べ物や飲み物についてだけではなく、ムスリムの日常生活のあらゆる場面にかかわることを含みます。
一方で、イスラム法によって「許されないもの」はハラームと言い、以下の飲食物が当てはまります。
- 豚肉・皮
- 豚由来の成分が含まれているもの
- ルール通りに屠畜・加工されていない動物の食肉
- アルコール飲料 など
ただしハラールの規定は、基本的に法律ではなく、宗教上の規定です。成文化されておらず、詳しい内容は国や地域によって異なります。
ハラール物流とは?
ハラール物流とは、イスラム法に基づいて商品の輸送や保管を行う仕組みです。ムスリム(イスラム教徒)の暮らしに必要な製品を安全に届けるためのもので、特に重要なのは豚肉やアルコールなどの禁止されている物品との接触や混入を防ぐことです。
ハラールな商品を運ぶ際は、非ハラールなものと混ざらないよう分けて管理します。例えば、倉庫での保管時には豚由来製品やアルコールと離して置き、「ハラール認証済み倉庫」や「ハラール認証トラック」といった専用設備を使います。原材料の調達から店頭陳列まで、サプライチェーン全体でのハラール性の維持が求められています。
ハラール認証・ハラール認証書とは?
農林水産省 輸出・国際局ハラールチーム「ハラールに関する基礎情報」によると、”ハラール認証とは、対象となる商品・サービスについて、ハラール認証機関が監査し、一定の基準を満たしていると認めること”とされています。ハラール認証書は、その証明として発行される公式文書です。ムスリム消費者に対して「この製品はイスラム法に適合している」という安心感を提供します。
食品だけでなく、化粧品、医薬品、物流サービスなども認証対象となり、各国・地域のハラール認証機関が独自の基準に基づいて審査を行います。認証を受けた製品には専用のロゴマークを表示でき、ムスリム市場での販売促進につながります。
ハラール認証の条件
ハラール認証の条件は認証機関によって異なりますが、一般的には以下のような要件があります。
- 原材料がすべてハラールである
- 製造工程でハラーム(禁止されたもの)との接触がない
- 製造設備の清浄性が保たれている
また、物流においては、専用の保管エリアや輸送設備の確保が求められます。世界には300以上のハラール認証機関があると言われており、統一基準がないため、判断基準や指導内容は機関によって差があります。そのため、輸出先の国や地域で認められている認証機関から取得することが重要です。
ハラール認証の問題点
ハラール認証の最大の問題点は、世界的な統一基準が存在しないことです。認証機関ごとに基準が異なるため、ある国で取得した認証が他の国でも通用するとは限りません。せっかく取得したハラール認証でも、現地の消費者がそのロゴを知らなければ、購入には結びつかないでしょう。
また、認証取得には以下のような高額なコストがかかります。
- 審査費用
- 検査員の招へい費用
- 専用設備の導入費用 など
認証には有効期限があり、定期的な更新が必要です。更新のたびに費用がかかるため、中小企業にとっては大きな負担となる点も課題です。
日本国内のハラールの現状・取り組み
日本国内では、訪日ムスリム観光客の増加やASEAN諸国への輸出拡大を背景に、ハラール対応の取り組みが進んでいます。食品業界ではキユーピー、日清食品、明治など大手企業を中心にハラール認証取得が増えてきました。物流業界でも日本通運、鈴江コーポレーションといった企業がハラール認証を取得した専用倉庫やサービスを提供し始めています。
また、国内では官公庁が「ムスリムおもてなしガイドブック」を、地方自治体でも独自に対応マニュアル冊子を作成するなど、インバウンド需要への対応も活発化しています。
日本でハラール物流が注目される理由
世界のムスリム人口は現在約19億人で、2030年には22億人を超えると予測されています。そうした中、日本でもハラール物流への関心が高まっています。ここでは、日本でハラール物流が注目される3つの理由を見ていきましょう。
東京オリンピックが影響している
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックは、多様な国からの訪問者を迎える機会として、ハラール対応の必要性を高めました。2018年には日本とマレーシアの間で「ハラール協力に関する覚書」が締結され、マレーシアによるハラール専門知識の支援と両国間の貿易・投資促進が約束されました。
これを契機に、多くの日本企業がハラール日本食の開発に取り組み始め、国内向けだけでなく海外展開も視野に入れる動きが広がっています。
観光立国が進んでいる
日本政府は「観光立国」を重要政策として位置づけ、2030年には年間6,000万人の訪日外国人観光客を目標に掲げています。その中でも、人口増加と経済成長が著しい東南アジア諸国からの観光客増加に期待が寄せられています。
インドネシアやマレーシアなどムスリム人口の多い国からの観光客にとって、食事や生活習慣における宗教的制約は重要な課題です。日本の文化や魅力を十分に体験してもらうためには、食事はもちろん、その流通過程においてもハラール対応が求められます。ハラール物流の整備は、ムスリム観光客に対する「おもてなし」の基本となるのです。
ASEAN諸国で日本食の人気が高まっている
近年、ASEAN諸国では日本食レストランの普及が急速に進み、現地の消費者に親しまれるようになっています。特に寿司やラーメンなどは、人気メニューとして定着しつつあります。
しかし、インドネシアやマレーシアなどのムスリムの多い国では、出店の際にハラールの戒律に沿った営業をしている証明として「ハラール認証」の取得が必要です。日本食材の輸出を拡大するためには、原材料から製造、物流、販売に至るまでの一貫したハラール対応が求められます。
越境ECにおけるハラール物流の課題
越境ECでムスリム消費者向けにビジネスを展開する際には、ハラール物流に関するさまざまな課題に直面します。このような課題を理解し、適切に対応することが市場参入のカギとなります。
ハラールに関する専門知識がない
日本の多くの企業や事業者にとって、イスラム教やハラールに関する知識は決して十分とは言えません。これまで日本ではイスラム教に触れる機会が少なく、ムスリムの生活習慣や戒律に対する理解が進んでいないのが現状です。
特に物流分野ではハラール対応の専門知識を持つ人材が限られており、適切な物流プロセスを設計・運用することが難しい状況です。ハラール認証を取得している物流企業も少なく、適切なサプライチェーンの構築が課題となっています。
ハラール物流にかかるコストが高い
ハラール物流では、ハラームな製品(豚肉やアルコールなど)との接触・混入を防がなければなりません。「保管・運送」においては、専用容器・専用コンテナ・専用トラックなどの専用機器を使用することが条件となります。そのため、一般商品の物流コストと比較して、保管コストや運送コストがどうしても高くなってしまいます。
また、ハラール商品の取扱量は一般商品より少ないため、ハラール商品の積載率が低くなりがちです。スケールメリットが働きにくく、1点あたりの物流コストが高くなるという課題もあります。
ハラール認証機関が乱立している
ハラール認証には国際的な統一基準が存在せず、認証機関によって基準や要求事項が異なります。日本国内だけでも実績が確認できる認証機関が9つあり、それぞれ認証基準や対応可能な国が同じではありません。
そのため、どの認証機関で申請すべきか判断が難しく、進出予定の国や地域によって認証を取り直す必要も生じます。こうした認証機関の乱立は、日本のハラール物流の発展にとって大きな障壁となっています。輸出先の国や地域で広く認められている認証機関を選ぶことが重要ですが、その判断自体が難しいのが現状です。
ハラールに対するASEAN諸国の対応
東南アジアは、イスラム教人口比率が約40%を占める大きな市場です。各国はハラールへの対応を政策的に位置づけています。しかし、その取り組み方は国によって大きく異なります。
なお、東南アジアの越境ECの市場規模について、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
>>東南アジアの越境ECの市場規模は?始め方や進出時の注意点を紹介
マレーシア
マレーシアはハラール認証制度の先進国で、1960年頃から国の機関JAKIMが認証を管理しています。経済発展で輸入品や加工品が増加する中、ムスリムが安心して食品を購入できる制度を構築しました。
JAKIMは国家戦略としてのブランド力と長い歴史を持ち、「ハラール産業マスタープラン2030」のもとハラール工業団地も建設しました。マレーシアハラール基準には以下のような、サプライチェーン全体をカバーする詳細なマニュアルが整備されています。
- MS1500(食品)
- MS2200(化粧品)
- MS2424(医薬品)
- MS2400(物流・倉庫・小売)など
インドネシア
インドネシアでは2019年10月より、国家機関であるBPJPH(ハラール製品保証実施機関)が宗教省傘下でハラール認証を一元管理する制度が開始されました。インドネシアは2014年に制定した「ハラール製品保証法」に基づき、段階的にハラール認証の義務化を進めています。2024年10月17日からは食品・飲料に関するハラール認証が義務化され、2026年までに化粧品や医薬品、衣類と順次拡大される予定です。
世界最大のムスリム人口を持つインドネシアは「ハラール産業マスタープラン2023-2029」を策定し、「世界のハラール産業の中心」となることを目指しています。日本企業にとって最も注視すべき市場と言えるでしょう。
シンガポール
シンガポールでは、MUIS(シンガポール・イスラーム宗教評議会)が文化地域青年省傘下の法定機関としてハラール認証を管理しています。認証取得は任意ですが、多民族・多宗教国家であるシンガポールでは、国内のイスラム教徒向けの環境整備を目的とした政策としてハラール認証が位置づけられています。
MUISの認証は飲食店を中心に広く普及しており、4,000以上の事業所が認証を取得しています。シンガポールのハラール認証は高い信頼性を持ち、99機関(48カ国)と相互承認関係を結んでいます。シンガポールはASEAN地域のビジネスハブとしての役割も担っており、ハラール産業の重要な拠点となっています。
タイ
タイでは、法定民間機関であるCICOT(タイ国中央イスラーム委員会)が、ハラール認証を担当しています。認証取得は任意ですが、タイ政府は「世界の台所(The Kitchen of the World)」という国家戦略の中で、ハラール食品を重要な分野として位置づけています。
タイ政府は2028年までに「東南アジアのハラールハブ」となることを目指し、5カ年計画の「タイハラール産業開発アクションプラン」を策定中です。現在、タイには15,000以上のハラール製造事業者と3,500以上のハラール飲食店があり、ハラール製品の輸出も年々増加しています。
ハラール物流の今後は?
Survey Reports合同会社の調査によると、ハラール物流市場は今後10年間で年平均8.1%成長すると予測されています。2024年の市場規模は約3億9,070万ドルと推計され、2033年には7億1,050万ドルまで拡大する見込みです。この成長を牽引するのは、以下の要素です。
- 世界的なイスラム教徒人口の増加
- ハラール基準に対する意識の高まり
- ハラール製品の国際取引の拡大
- ロジスティクス技術の進歩
- ハラール認証サプライチェーン・ソリューションへの投資の拡大
これにより、以前よりもハラール物流への対応が容易になり、市場の拡大を後押しすると考えられています。
また、日本のハラール物流市場は、訪日ムスリム観光客の増加やASEAN諸国への輸出拡大に伴い成長中です。大手企業によるハラール認証取得が進み、ハラール専用倉庫やサービスの展開も始まっています。今後も食品や医薬品分野を中心に需要は拡大し続ける見込みです。
越境EC事業者がハラール物流に取り組んでいくには?
越境ECでイスラム圏市場に参入するには、イスラム教とその文化への理解を深め、ハラール対応の物流体制を構築することが不可欠です。原材料や製造工程のハラール化からスタートし、物流面では専用保管スペースの確保や専用車両での輸送など、サプライチェーン全体でハラール性を保証する体制が必要です。
しかし、日本企業が独自にハラール物流を構築するには多くの課題があります。特に専門知識の不足や高コスト、認証取得の複雑さなどがハードルとなります。こうした課題に直面したとき、まずは基本的な物流基盤を安定させることが重要です。
越境EC物流の基盤を固めるなら、ウルロジのようなEC物流代行サービスの活用が効率的です。安定した物流体制を確立した上で、ハラール対応へと段階的に進めることで、リスクを抑えながらイスラム圏市場への参入が可能になります。市場拡大を見据えた戦略的なアプローチが、海外展開成功へのカギとなるでしょう。
越境EC対応の発送代行サービスは、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
>>越境EC対応の発送代行サービス5選!委託するメリット・デメリットを徹底解説
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