eコマース市場の拡大で需要が高まる物流業界の改革の必要性
2021.11.29物流・フルフィルメントオンラインショップやオークションサイトの活性化、さらには企業間の商取引も電子化が進み、電子商取引(EC)市場は拡大の一途をたどっています。一方で、売買された商品を運ぶ宅配業界はここ数年、深刻な人手不足に瀕しています。高まる電子商取引の需要に対応するには業界の働き方改革が急務。社会インフラの担い手として物流業界はこの改革を推し進める必要性に問われています。
目次
7.5兆円におよぶ通販市場。国内の潜在需要はまだ残されている?
物流業界の展望を語る上で、今や切り離すことのできないEC産業。それではこのEC市場は現在、どのような状況にあるのでしょうか。
経済産業省の『電子商取引調査』によると、2017年の国内EC市場はBtoB、BtoCいずれも9%台の伸びを示し、越境ECも日本から米国は7,182億円(15.8%)、日本から中国は実に1兆2,978億円(25.2%伸長)となっています。ECの伸張に伴い、宅配需要も伸びており、昨年度の宅配便取扱個数は42.5億個、この8年間で約10億個(3割強)増えている計算となります。
2017年の日本国内BtoC ─ EC市場規模は16.5兆円(前年比9.1%増)。7年前の2010年は7.7兆円だったのが倍以上伸びていることになります。一方、BtoB ─ EC市場規模は317.2兆円(前年比9.0%増)でBtoCより動きが活発です。
2018年11月11日には、中国ネット通販最大手である阿里巴巴集団(アリババグループ)が恒例の24時間タイムセール「独身の日(シングルディ)」を開催。取引額は昨年を27%上回り、2,135億人民元(日本円で約3兆5,000億円)に達したと言われています。翌12日から16日までの5日間に18億7,000万個の荷物が配送されたそうです。
アリババグループの発表によると、このシングルディ特需で最も恩恵を得た国は日本のようでこと通販に関して「爆買い」は依然として続いているようです。当然ですが、この影響により国内の物流も活性化したのは言うまでもありません。
越境ECを支える物流サービス
越境ECには、取引まで国内または海外のプラットフォームへの出店、サイトの翻訳、消費者からの問い合わせ対応、国境をまたいだ配送手配など、一長一短には手が出せない高いハードルがあり、これらをすべて独自に行うことは容易ではありません。そこで、注目を浴びているのが物流企業を中心とした越境ECサービスです。
日本通運は、2016年にアリババグループと業務提携し、T−MALL国際(天猫国際)出店者への物流サービスを提供。アリババグループの菜鳥網絡、出店者、日通間をEDI(電子データ交換)で結び、オーダー管理、通関情報、輸送履歴情報、運賃決済情報を提供しています。
日本郵便も越境ECの支援に力を入れています。従来の税金(行郵税)より税率が低い越境EC総合税を利用するのに必要な受取人の個人IDが取得できずに困っているEC事業者に対し、クーリエ通関(個人宛て配送サービス)および電子データによる通関(日本郵便と提携関係にあるレントングループと中国郵政が共同開発した配送サービス)を利用するUGX(ゆうグローバルエクスプレス)を提供。国際スピード郵便(EMS)に比べ約半額の料金で利用できるようにしました。
このほか、住商グローバル・ロジスティクス、佐川グローバルロジスティクスなども、素人が不慣れな通関などの物流代行を中心に越境ECサービスを展開しています。つまり、高まるEC取引のなかでも越境ECに、大手を中心とした物流事業者は深く食い込んでおり、その流れがトレンドになりつつあるのです。
働く人を呼び込み、定着させる働き方改革が急務
当然ですが、EC市場の拡大に伴い宅配や倉庫業務は増加の一途をたどっています。一方、慢性的な人手不足は物流業界全体に及んでいます。人を呼び込み、定着させるには働き方改革が急務となっています。
引用元:平成29年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法 – 国土交通省
上のグラフを見ていただけば分かる通り荷量は増える一方で、収益の減少、労働環境の悪化から人材不足に陥るという業界の、いわゆる「宅配危機」。この危機をどう乗り換えるのか。
宅配危機の発端となったヤマトホールディングスは2017年、デリバリー事業の構造改革に着手。長時間労働の一因となっていた配達時間枠を見直し、20時~21時を19時~21時の2時間枠へ変更、昼時間帯枠(12時~14時)を廃止し、再配達時間も20時から19時へと繰り上げ。大口顧客約1,000社には荷物総量の抑制を依頼し、約8,000万個の削減につなげました。
また、佐川急便も、2019年1月1日の営業所~中継センター間の輸送業務中止を表明、日本郵便も、土曜の郵便配達をやめ、配達日数を送らす郵便法改正を総務省に求めています。このように、大手物流企業は労働環境の改善を念頭に置いた、無理ない受注の形、新しいビジネススタイルを模索しています。
この動きは政府も後押ししており、経済産業省と国土交通省が設置した「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」で、再配達削減に向けた取り組み事例集を作成し、普及に努めています。
事例集には、日本郵便とファンケルによる「置き場所指定お届けサービス」として、物置や車庫、自転車のカゴ、集合住宅の管理人預けやガスメーターボックスなどに受領印不要で届けることが記載されています。
引用元:宅配事業と EC 事業の生産性向上連絡会~再配達削減に向けた取組事例~ – 国土交通省
こうした動きは個人向け宅配の企業だけでなく、BtoB向けの物流企業の間にも広がりつつあり、福山通運は2018年10月から日曜日の集荷・配達業務を中止しました。働き方改革に向けた職場環境改善のためです。
道半ばの状況の中、2019年4月の期限が迫る「働き方改革」
配達時間の変更は、荷主や消費者の理解と協力が必要ですが、今のところ業界全体への理解は進んでいるようです。一方、少人数でも一定の業務量をこなすための生産性向上に向けた設備投資、働く人への賃金改善・労働環境改善にはその原資が必要です。
こういった背景もあり、宅配大手のヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社は2017年、相次いで料金の値上げをしました。宅配だけでなく、BtoBを担う多くの物流会社が運賃・料金値上げ交渉に取り組んでいます。
2018年度の上場物流企業の中間決算をみると、「運賃・料金改定効果」で多くの企業が増益を果たしました。ただ、比較的取り扱いの少ない荷主は「運んでもらえなくなる」懸念から、値上げに応じているようですが、大口顧客との交渉は難航しているようです。物流業界には全般に安価な運賃でやりとりする習慣が横行しており、「適正運賃収受はまだ道半ば」の状況です。
2018年6月に働き方改革関連法が成立。長時間労働を是正するため、2019年4月から時間外労働時間に罰則を伴う制限が適用されます。トラックドライバーは5年間の猶予措置が講じられましたが、倉庫で働く人たちなどには先んじて適用されます。今まで厳密にしてこなかった「労働者1人1人の労働時間管理」をキチンと行うことが求められているのです。
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