外資系ディベロッパーによる物流不動産ビジネスにおけるファンド戦略とは?

2021.11.29物流・フルフィルメント
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外資系デベロッパーの米プロロジスがDHL専用のBTS(Build To Suit)施設を2002年に東京・新木場で開発して以来、国内・外の大手デベロッパーも大型物流施設の開発にこぞって参入、急ピッチで市場が形成されてきました。この「物流不動産ビジネス」に注力する外資系デベロッパーの目論見、意図は何なのでしょうか。日本における物流不動産ビジネスは拡大していくのでしょうか。同市場の行く末を占います。

近年耳にする「物流不動産」とは?

物流業界に身を置いている方なら、近年、「物流不動産」「物流不動産ビジネス」という言葉を耳にする機会が増えてきたと思います。「物流不動産」という言葉は、「物流」と「不動産」をかけ合わせた新語で、倉庫や物流拠点に不動産の概念を取り入れたことを言います。

倉庫や物流拠点に不動産の概念を取り入れるとはどういうことか。これまで、倉庫や物流拠点は「物流」に特化した建屋として、寄託貨物の保管・荷役をメインに行うための施設として、倉庫オーナーから荷主や物流会社などの第三者へ賃貸(リーシング)することで売り上げをたててきました。「物流不動産」はこれらのビジネススタイルとは異なり、一般の不動産と同様に、倉庫や物流拠点のスペースを貸し出し、その賃料で収益を得ます。

もともと倉庫業などは、事業を行うための免許取得が容易ではなく、港湾や地域的な業務規則、港湾荷役や労働者の権利保全、特殊権益など、管轄省庁が異なるさまざまな規則が混在するなど参入障壁が高く、新規参入が困難な業界でした。このため、“新たなビジネス”が育ちづらい土壌だったのです。

流れが変わったのは2001年の中央省庁再編で、運輸省、建設省、国土庁、北海道開発庁を国土交通省に統合したことに端を発します。倉庫、物流施設を取り巻く営業範囲の垣根が低くなり、新規業者の参入がしやすくなりました。これにより、新しい物流の考え方などが芽吹き、その一つとして物流施設に不動産業の要素を取り入れ、「坪貸し」を基準とした不動産的な見方も浸透していくようになりました。

黒船来襲を冷ややかに見ていた日本の倉庫業界

これまでの日本になかった物流施設の不動産化ビジネスを国内で開始したのは外資系デベロッパーのプロロジスでした。2002年、米大手物流会社のDHL専用に、床面積敷地面積2万m2の大型物流施設「プロロジスパーク新木場」(現在の名称は「GLP新木場」)を竣工しています。

このプロロジスが日本に参入してきたのが1999年。物流施設を専門に開発、所有、管理、運営するこの外資系企業の参入に対し、当時、大手新聞社は彼らを「黒船」と報じ、物流業界の変化の兆しとなることを早急に読み取っていましたが、巨大な物流施設を売りとする同社に対して国内の倉庫業者の多くは、「あんな巨大な箱に合う貨物はない」と、対岸の火事のようにプロロジスの動きを鳥瞰(ふかん)していた向きがあります。

と言うのも、100年以上の歴史を持つ老舗企業も多く、蔵(倉)を資産として培ってきた伝統がある国内の倉庫会社からすれば、倉庫業は寄託貨物の保管・荷役で収益を上げるもので、倉庫を新設する際は、貨物ありきで倉庫規模を考えるのが常識。契約する荷主の保管量・入出庫の動きから、貨物量を換算、自社に見合う規模で開発するのが常識。倉庫会社は自社の資産と金融機関から資金を調達する「間接金融」を採用、金利、償却、収支のバランスを見極めてきました。

一方で外資系デベロッパーの施設開発スキームは日本の倉庫会社と全く異なるものです。国内、欧米、アジアの投資家から集めた資金をもとに個人資金をはじめ、企業年金も活用するなど、莫大なマネーを投じて施設を開発、賃料収入を収受するビジネスモデルを採用しています。従来の倉庫業からみれば、まったく異なるビジネススタイルだったのです。

倉庫業界に「ノンアセット型」物流施設が浸透

近年、物流とくに倉庫を取り巻く環境は大きく変わっています。この背景には消費者のライフスタイルの多様化があるといえます。これに応じて荷主からの物流ニーズも大きく様変わりしてくるようになりました。

少し過去にさかのぼると、旧来、倉庫は荷主から寄託される貨物の保管を主な事業とする、保管型物流施設が主流でしたが、1990年代後半頃からは貨物保管という本来の物流目的に加え、コスト削減やサプライチェーンの最適化への対応が求められるようになりました。その後、高機能な設備導入や流通加工スペースの確保、保管以外の付加価値をつけた「配送型物流施設」のニーズに合致するのが大型物流施設です。

米国発のサード・パーティ・ロジスティクス(3PL)の躍進も背景にあります。荷主が物流サービス水準の向上や物流コストの削減を目的に、物流事業者に対し物流業務を一括して委託する3PLが拡がり、物流施設のあり方を大きく変えました。多くの3PLでは自社倉庫を持たない「ノンアセット型」物流サービスを必要としたからです。3PLを請け負う企業は大型物流施設を賃貸し、物流業務を開始しました。

3PL業者は後に、大型物流施設の賃貸スペースを区割りし、新たにテナントを迎え入れるようになりました。そこで形成されるのは賃料を収受する「サブリース」(転貸)のビジネスモデルです。つまり、プロロジスのビジネスモデルなのです。

時代の変化に伴い、ビジネスの展開が求められる。この動きにすでにあわせている欧米企業の日本への進出という動きは、国内の倉庫会社にとっても、大きな脅威と映るようになってきたのです。

大型物流施設のユーザーに対する5つのメリット

サブリースの形で大型施設を使用するユーザー側のメリットは大きく5点に分類されます。

トラックで高層階まで乗り入れ可能なランプウェイ

従来型倉庫は1階の平屋建てで、複数階の倉庫へのアクセスはエレベータか垂直搬送機によるものでした。ランプウェイを設置すれば、大型トラックが自走式で各フロアまで横付けできます。高層階でも1階と変わらない機能を持ちます。

広大なフロアによる使い勝手の良さ

点在していた複数倉庫から拠点集約をすることができます。現在の物流施設はモノを保管する機能だけではなく、荷札やシール貼りなど流通加工や検品、仕分け、返品された荷物 の点検・再生などの流通加工の機能も担います。倉庫間の横持ちが必要だった荷物も、同じフロアでコンベヤなどを介して自動搬送することが可能になり、リードタイムが大幅に短縮します。

盤石なセキュリティ・免震システムへの信頼感

多くの物流施設は入退場口で最新のセキュリティシステムを導入しているため、外部侵入者を防ぐ面でも効果があります。高価な荷物や食品などに最適です。

また、多くの大型物流施設には免震装置が設置されており、万が一の大型大震災の際にも安心です。

空間としての魅力を出すためアメニティ施設の充実

昔の倉庫は多数の人が駐在する空間ではありませんでした。トイレが男女別となっているところは少なく、無機質な空間となっていました。しかし、現在では物流デベロッパーが差別化を図るため、快適性、魅力ある環境などアメニティを追求しています。

アメニティを追求する最たるデベロッパーは米国系のESRです。「ヒューマン・セントリック・デザイン」のコンセプトを掲げ、モノ中心の施設から人間にフォーカス。月並みな言葉で “物流施設に見えない” 美しく、クール、暖かい空間は、在日英国商工会議所主の「2018 British Business Awards」において、物流業界では初となるグランプリ受賞しています。

保育所の併設

近年では保育所の併設がトレンドとなっています。仕分けなど、庫内作業に従事する近隣のパート女性を雇用するためのキーワードが保育所です。この流れは運送会社にも派生し、女性ドライバーを確保するため、事務所に併設する事例も増加しています。

おわりに

消費者のライフスタイルの変更が、EC市場の拡大というトレンドを呼び、倉庫にも新しい形,ビジネススタイルを求めるようになっています。これに加え、2020年には東京オリンピックが開催、後の2025年には大阪万博も開催が決定、荷量は今以上に増加することが見込まれ、倉庫の開発ラッシュはしばらく続くと推測されます。

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角田和樹
上場企業であるディーエムソリューションズ株式会社の物流関連サービスで15年間、営業やマーケティング、物流企画など様々なポジションを経験。 現在は物流・発送代行サービス「ウルロジ 」のマーケティング全体設計を担う。通販エキスパート検定1級・2級を保有し、実際に食品消費財のEC事業も運用。ECノウハウに対しても深い知見を持ち、物流事業者としてだけでなく、EC事業者の両面からnoteウェビナー等での情報発信を行う。