食品EC市場は伸び悩み?物流の観点から見る課題とネットスーパー大手の取り組みとは
2021.11.29物流・フルフィルメントすっかり私達の生活に欠かせなくなったネット通販(EC)ですが、食品ジャンルは伸び悩みが続いています。2017年の経済産業省の調べによると、国内の食品市場のEC化率はわずか2.41%。なぜ食品EC市場が伸び悩んでいるのか、課題解決のための各社の取り組みをご紹介します。
目次
食品EC市場規模は拡大しているが…
食品ECの市場規模は世界的に見ても拡大しており、一見普及が進んでいるかに見えます。
しかし、消費者の需要は増えていても、業界全体の供給体制が整備されているとはいえない状況があります。
国内の食品EC市場
国内の食品EC市場がいつ頃から始まったのか明確なデータはありませんが、農林水産省の資料「通信販売の実態に関する既存資料調査」によれば2009年には具体的な市場規模の数値が算出されています。2009年度の食品のインターネット通販は2200億円、ネットスーパーは419億円、合計すると2600億円程度の市場規模でした。
2017年現在のデータは、経済産業省の「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備報告書」です。これによると食品、飲料、酒類の2017年のEC市場規模は、1兆5579億円です。10年で7倍にまで市場規模が拡大したことがわかります。
参考:平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備
短期で見ても食品EC市場の売上自体は右肩上がりで伸びており、2016年の1兆4503億円と比較して7.4%増となっています。しかし、EC化率は2016年2.25%、2017年は2.41%となっており、売上と比較してほとんど進んでいない状況です。
これは、大手の食品流通各社がネット通販やネットスーパーでの売上を伸ばす一方、中小の小売では店舗での販売方式しか取り扱っていない現状を表しています。設備やネットインフラの構築、専用人材の確保に投資できる大手企業でないと、食品EC事業への転換は困難なのです。
海外の食品EC市場
海外の食品EC市場も、日用品や電化製品等と比べると成長は鈍いです。アクセンチュアの「食品に関する電子商取引(EC)の各国調査報告書」から分析してみましょう。
参考:「平成29年度輸出戦略実行事業」品に関する電子商取引(EC)の各国調査報告書
もちろん市場規模でいうと拡大の一途であり、例えば中国の食品EC市場は2012年から2016年までで4.5倍の売上となっています。ドイツでも同期間で2倍、ヨーロッパやアメリカでも1.5倍前後で市場が成長しており、需要は増える一方です。
しかしながら、供給側のEC化はなかなか進んでいません。2016年のデータだと米国のEC化率は1.1%。日本は当時1.9%です。EC市場の売上が拡大しているドイツはわずか0.5%。やはり大手の売上が伸びている=市場拡大であって、供給インフラの整備が進んでいるわけではないようです。
EC化が進んでいる国としてはイギリスの5.5%が筆頭です。フランスの3.8%、中国の2.3%がそれに続きます。
欧州の場合、国を超えた越境ECの利用度が高いのが特徴です。ユーロ各国ではイギリス・フランスの食品ECサイトの利用が多く、複数の国にまたがってサービスを展開するのは普通になっています。一方日本では食品の越境ECはほとんどありません。
また、食品EC化が最も進んでいるイギリスでは大手はもちろん、中小の店舗と消費者をつ専門のEC事業者も発達しています。イギリスでは3人に1人が食品ECの利用者です。
市場規模が伸びない要因
食品ECの市場規模が伸びない原因には、物流側面における食品取り扱いの難しさが大きく影響しています。
生鮮食品の保管の難しさ
まず一つ目は生鮮食品の保管の難しさです。食品ごとに適した温度で保管することが求められるため、冷蔵や冷凍の設備も大規模なものが求められます。中小の事業者では自社で設備投資することが難しく保管をアウトソーシングせざるを得ないため、費用もかかり食品ECへの進出を躊躇しがちです。
出荷期限と賞味期限の管理のようなスケジュール管理の問題もあります。ITによるシステム管理に加えて実際作業を行う人によるヒューマンエラーを防ぐ必要があり、仕入れから出荷までのフローを構築するのが大変です。
生鮮食品の利益率の低さ
2つ目は生鮮食品の利益率の低さです。生鮮食品は電化製品や日用品と違い、単価が安い上に短期間しか保存できないため、在庫を抱えるリスクが高い商品です。また、前述したような保管の問題から輸送時の物流コストもかかります。冷凍冷蔵車両は必須ですし、納品スケジュールは非常にタイトです。低利益高コスト体質の商品であるがゆえに、食品ECはなかなか発展しないのです。
ネットスーパー大手の取り組み
こういった問題から食品EC事業に参入したものの、赤字により撤退する企業が増えています。一方でネットスーパー大手では食品EC市場を拡大する取り組みが行われています。各社の取り組みを紹介します。
楽天西友
楽天+西友がタッグを組んで食品EC事業に取り組んでいます。これは楽天のEC事業のノウハウと西友の生鮮食品販売のノウハウを融合させた業態です。これにより西友のネットスーパーの利用者は発足前の1.4倍まで増加しました。
具体的な取り組みとしては顧客が注文した日に当日配送できるシステムを確立したこと。既存のネットスーパーでは注文しても品物が届くのが翌日以降になるというケースが非常に多く、これだとその日の食事に使いたい用途には役にたちません。楽天西友ではこの不便さをまず解消し、今後は顧客の受け取り希望によりフレキシブルに対応できるようにするということです。
これが可能になった背景にはネットスーパー専用の物流拠点を設けたことです。ネットスーパーのノウハウは既存店舗の運営と全く異なるため、専門の設計やスタッフの動線が必要になります。楽天西友では大手ならではの設備投資で、食品EC事業の拡大に成功したといえます。
参考サイト:楽天西友ネットスーパー
カクヤス
カクヤスはインターネットでのEC事業を本格的に始める前から、コンシュマー向けに1本からでもなんでも宅配というサービスを打ち出してきました。これが可能だったのは、1回の宅配で近隣の飲食店に宅配する高粗利の案件と、個人向けの低粗利の案件を混在させたからです。この手法は、現在多くのネットスーパーで、ミールキットの販売やオリジナル商品の開発という手法に応用されています。一つの買い物の中で高粗利商品と低粗利商品を混在させやすくするというわけです。
一方EC事業では難しい課題も浮き彫りとなっています。2019年4月にはECサイトでの送料無料ラインを引き上げました。改定前は2500円以上で送料無料だったのが、改定後は4700円以上で送料無料となっています。原因としては荷物量増加と宅配業界の人手不足ということです。
2017年には平和島に4000坪の自社物流センターをオープンさせ、自社でトラックドライバーを抱えコストを削減するメリットを打ち出していました。当初の目算以上に、EC事業を巡る物流のリソース不足は深刻というわけです。
参考サイト:カクヤス
Amazonフレッシュ
EC業界の雄であるAmazonも、2017年からAmazonフレッシュとして生鮮食品を取り扱っています。川崎に物流拠点である「Amazon川崎フルフィルメントセンター」がある関係上、サービス提供エリアは首都圏の一部のみです。
ここではAmazonならではの設備投資力、倉庫運営ノウハウを生かし、食品管理を行っています。牛乳や水など重量がある食品の利用度が高いということです。
参考サイト:Amazonフレッシュ
おわりに
楽天西友やAmazonのような大手でも、全国的なサービス展開にはまだ至っていません。これは、生鮮食品の配送には鮮度を高く保管できる物流拠点と即出荷できる物流システムの構築が不可欠であり、それを自社で行うには莫大なコストがかかるからです。
中小企業がEC事業に乗り出すにはアウトソーシングするしかありませんが、低利益高コストの生鮮食品ECはリスクが大きいのも事実です。
しかし、市場事態は拡大傾向にあるため、突破口をどこかに見出す必要があります。販売者と顧客をつなぐ専用のEC事業者の動きが活発なイギリスのような事例は、一つのヒントになるかもしれません。
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