EC物流の市場規模は拡大か?市場規模と今後の成長予測
2024.08.07物流・フルフィルメント
経済産業省が公開した「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」によると、国内のBtoC-EC市場規模は、2013年から2022年の10年間で2倍以上に拡大しています。
2022年は物販系分野が堅実に伸長する中、「まん延防止等重点措置の解除」「全国旅行支援」を受けてサービス系分野の市場規模が大きく拡大しました。2024年問題への対応を迫られる中、EC物流市場の今後の動向を気にしている方は多いでしょう。
ここでは、2023年時点におけるEC物流の市場規模、EC物流市場規模が拡大を続ける理由、今後の成長予測とその根拠などを解説しています。
出典:(pdf)令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書- 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
目次
EC物流の市場規模は拡大傾向にある
2022年現在のEC物流の市場規模について、「物流業界の売上」「物流施設への不動産投資」「3PL市場」の3つの視点で調査したところ、拡大傾向にあることが分かりました。
詳細は、下記のとおりです。
物流業界の売上と宅配便取扱個数の増加
国土交通省が発表している資料によると、国内物流業界の主要な業種の営業収入合計は約29兆円です。うち約19兆円をトラック運動業者(青ナンバー)が占めています。トラック運動業(青ナンバー)の中小企業率は99%です。
また、国内貨物輸送量をトンベースでみると自動車が約9割を占めています。以上のデータから、1回あたりの運送で運ばれる貨物の重量は減少傾向であり、小口配送が増加していることがうかがえます。
2024年問題に対応するため、トラック輸送の生産性向上・物流の効率化に向けた取り組みは欠かせないといえるでしょう。
出典:(pdf)物流2024年問題について-国土交通省 中部運輸局自動車交通部
宅配便取扱個数はどのように推移しているのでしょうか。国土交通省が発表している資料によると、2020年度(令和2年度)における宅配便合計取扱個数は約48億個、2021年度(令和3年度)における宅配便合計取扱個数は約50億個、2021年度(令和3年度)の対前年度比は102.4%です。EC市場規模の拡大とあわせて、宅配便取扱個数も堅調に増加していると考えられます。
出典:(pdf)令和3年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法-国土交通省
画像引用元: 我が国の物流を取り巻く現状と取組状況-経済産業省・国土交通省・農林水産省
物流施設特化型REIT(リート)への期待感
物流業界に対する期待感は、REIT(不動産投資信託)からも見て取れます。2016年以降、物流特化型の不動産投資法人の上場が相次いでいます。
具体的には、2016年に三井不動産ロジスティクスパーク投資法人、2017年に三菱地所物流リート投資法人、2018年に伊藤忠アドバンス・ロジスティクス投資法人、2021年に東海道リート投資法人が上場しています。各REITの物件稼働率が高い点もポイントです。EC市場規模の拡大、EC物流に対する期待感は高まっています。
出典:REIT(種別・物流施設・インフラ)-NIKKEI COMPASS
以上の流れなどを受けて、3PL市場も拡大しています。2020年度における3PLビジネスの市場規模は約3.3兆円です。
2010年度(市場規模約1.5兆円未満)から2倍以上の市場規模に拡大しています。物流業務の専門性が急激に高まっているといえるでしょう。
また、物流業務を3PL業者へ委託する動きが定着しつつあるとも考えられます。物流業務に対する向き合い方が、ビジネスの成否にかかわる時代に突入しています。
出典:(pdf)3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(1)~拡大する3PLビジネスの現状~-ニッセイ基礎研究所
EC物流の市場規模が拡大している2つの理由
EC物流の市場規模が拡大している理由として、下記の2つが考えられます。
- サービス系分野のEC市場の成長率が前年比32%増加
- EC各社が配送サービスなどの充実に取り組んでいるため
1.サービス系分野のEC市場の成長率が前年比32%増加
経済産業省が発表している資料によると、2022年における国内BtoC-EC市場規模は22兆7,449億円です。対前年比で市場規模は、2兆499億円拡大しています。(図表1)国内BtoC-EC市場は、「物販系分野」「サービス系分野」「デジタル系分野」で構成されます。3分野の中で急成長を遂げたのがサービス系分野です。(図表2・3)
2022年におけるサービス系分野のBtoC-EC市場規模は6兆1,477億円、前年比成長率は32.43%(2021年の市場規模は4兆6,424億円)です。
新型コロナウイルス感染症の流行がひと段落したことで、旅行サービス系・飲食サービス系・チケット販売系の市場規模が急拡大しました。2022年における旅行サービス系の市場規模は2兆3,518億円、前年比成長率は67.95%、飲食サービス系の市場規模は6,601億円、前年比成長率は33.69%、チケット販売系の市場規模は5,581億円、前年比成長率は73.89%です。
「まん延防止等重点措置」の解除(2022年3月)による外出需要の増加を反映しているといえるでしょう。
また、旅行サービス系の市場規模拡大には、2022年10月からスタートした「全国旅行支援」も大きな影響を与えていると考えられます。
ただし、2019年におけるサービス系分野のBtoC-EC市場規模は7兆1,672億円です。市場規模は急拡大しているものの、新型コロナウイルス感染症流行拡大前の水準には戻っていません。今後も拡大が続くと予想されます。
図表1)BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)
図表2)物販系分野のBtoC-EC市場規模
図表3)サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模
画像引用元: (pdf)令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書-経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
2. EC各社による配送サービスなどの充実への取り組み
EC各社が配送サービスなどの充実に取り組んでいることも、EC物流の市場規模が拡大している一つの理由でしょう。Amazon、楽天、ヤフージャパンなど、各社ともに配送サービスの拡充を推進しています。
例えばAmazonでは、年会費を払うとお急ぎ便や通常配送料が無料になるサービスや、「当日お急ぎ便」で所定の時間内の注文で当日配送が可能になるサービスの提供をスタートしました。
楽天は「あす楽配送遅延の保証」で翌日に届かない場合に、代金の5%をポイントでキャッシュバックなどのサービスを行っています。
このようなサービス拡充に伴って煩雑化した業務の軽減のために、外部のEC物流サービスの利用を検討するEC事業者が今後ますます増えるでしょう。EC物流代行業者選びの際には、下記の記事を判断材料にしていただければと思います。
出典:(pdf)Eコマース市場の拡大と物流業への影響 – 日本政策投資銀行(DBJ)(図表3-4)
>>物流アウトソーシングのメリットと注意点を様々な視点からご紹介
>>EC物流代行業者比較!項目別に11社の強みや検討時の注意点を徹底検証
日本国内と世界におけるEC物流の市場規模の動向
物販系EC市場の拡大に伴ったEC物流の動向は、国内と海外で違いはあるのでしょうか。ここでは、日本国内と世界におけるEC物流の市場規模の動向について、物流施設の稼働状況や新規開発のデータを元に見ていきましょう。
日本国内のEC物流の市場規模の動向
2023年第3四半期における首都圏大型マルチテナント型物流施設(LMT)の空室率は8.9%です。空室率は前期より0.7ポイント上昇しているものの、新規需要(17.1万坪)は前年度四半期平均(12.2万坪)を上回っています。
2023年第3四半期における新規供給は前期とほぼ同じです(2023年第2四半期:24.4万坪、2023年第3四半期23.4万坪)。国内のEC物流市場規模は、供給・需要ともに拡大を続けているといえるでしょう。
出典:(pdf)ジャパンロジスティクスマーケットビュー2023年第3四半期-CBRE japan
出典:Japan_Logistics MarketView_Q2 2023_JP-CBRE japan
世界のEC物流の市場規模の動向
世界のEC物流市場を見てみると、大規模な物流拠点の新設やスタッフ増員などの動きが目立ちます。例えば、Amazonは2020年以降、世界中に多数のデリバリーステーションや物流拠点のフルフィルメントセンターを新設するなど、物流ネットワーク全体の面積を50%増加しました。
それに伴い40万人以上の社員を雇用し、インセンティブやボーナスとして25億ドル以上の投資を行っています。これらのことから、世界でも大手ECが市場の拡大をけん引しているといえるでしょう。
出典:Amazonニュース
EC物流の今後の市場規模の成長予測と2つの根拠
EC物流の今後の市場規模の成長予測は、今後も拡大傾向と考えられます。その根拠となる事項は、下記の2つです。
- 世界規模でのEC化率の上昇
- 大型マルチテナント型物流施設(LMT)の新規需要増加
1つずつ解説していきます。
根拠① 世界規模でのEC化率の上昇
経済産業省の発表によると、2022年における世界のBtoC-EC市場規模は5.44兆ドル、EC化率は19.3%です。EC化率は、全ての商取引金額に対するEC市場規模の割合を表します。
世界のEC化率は、新型コロナウイルス感染症の流行拡大を受けて大きく上昇し、2021年のEC化率は19.2%でした。今後も、市場規模の拡大とともにEC化率は上昇すると考えられています。現時点で予想されている2026年の市場規模は7.62兆ドル、EC化率は23.3%です。
ちなみに、2022年における国内のEC化率は9.13%にとどまっています(2021年は8.78%)。国内のBtoC-EC市場は成長の余地が大きいといえるでしょう。
画像引用元: (pdf)令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書-経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
EC市場の拡大が世界規模で続いている例として、amazon.comの2022年第4四半期の売上高を紹介します。同期の売上高は1,492億ドル、前年同期比成長率は9%、為替レートの不利な影響を除く成長率は12%です。
部門別に売上高を見ると、北米部門の売上高は934億ドル(前年同期比13%増)、国際部門の売上高は345億ドル(前年同期比8%減)です。国際部門の売上高は減少していますが、為替変動の影響を除くと5%の成長に相当します。EC化率の高まりなどを受けて、売上高を大きく伸ばしていることがわかります。
出典:(pdf)令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書-経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
出典:Amazon.com Announces Fourth Quarter Results-amazon
根拠② 大型マルチテナント型物流施設(LMT)の新規需要増加
2023年第1四半期に30万坪を超える新規供給があったことなどを受けて、首都圏における大型マルチテナント型物流施設(LMT)の空室率は横ばいからやや増加傾向となっています。一方で、2023年第3四半期における新規需要は17.1万坪であり、前年度の四半期平均を上回っています。
グラフ)首都圏のLMT物流施設 需給バランス
画像引用元:Japan_Logistics MarketView_Q2 2023_JP-CBRE japan
大型マルチテナント型物流施設(LMT)の新規需要は、依然として底堅いといえるでしょう。今後も、大型マルチテナント型物流施設(LMT)の供給・需要は堅調に推移すると考えられます。
出典:(pdf)ジャパンロジスティクスマーケットビュー2023年第3四半期-CBRE japan
おわりに
この記事では、2023年におけるEC物流の市場規模・今後の動向・成長予測などについて解説しました。
国内では、旅行サービス系・飲食サービス系・チケット販売系を含むサービス系のEC市場規模が急拡大しています。2022年の市場規模は6兆1,477億円、前年比の増減率は32.43%です。物販系分野が手堅く伸びている点も見逃せません。2022年の市場規模は13兆9,997億円、前年比の増減率は5.37%です。
EC市場の拡大を受けて、国内では大型マルチテナント型物流施設(LMT)の新規開業が続いています。首都圏における同施設の空室率は横ばいからやや上昇傾向ですが、依然として底堅い需要があります。国内のEC化率は海外に比べて低い水準です。さらなる成長を見込めるため、各事業者が積極投資を行っている状況と考えられます。国内のEC物流市場は今後も拡大を続けるでしょう。
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