宅配クライシスとは?原因と今後の解決方法について

2021.11.29物流・フルフィルメント
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近年ネット通販業が盛んになり佐川急便やヤマト運輸など通販商品を届ける宅配便業社もそれに伴い多忙になってきました。

宅配業界は急激に成長している通販業界の増え続ける配送量に追いつけるよう努力はしているのですが、このまま通販業界の規模が順調に拡大し続けると宅配業者が対応しきれなくなるかもしれないのです。

その将来訪れるかもしれない宅配業者の危機のことを「宅配クライシス」と呼び、現在対策が練られています。

今回は将来運送会社に訪れるであろう「宅配クライシス」とはどんなものがあるのかを解説します。

宅配クライシスとは?

宅配クライシスとは、一般的にはAmazonや楽天など、日本の通販業界が成長し、さらには越境ECなど世界中からネット通販で商品が購入できるようになったため、その商品を配達する運送会社での業務過多や労働者不足などの問題が発生していることです。

ネット通販業が成長してきたように宅配業も順調に成長するように予想されていましたが、予想以上のネット通販業の伸びにより、人員の確保や運送料の見直しなどで問題が発生したのです。

それら運送業が今後ネット通販の宅配を担っていく上で問題視されている「宅配クライシス」、その原因は大きく分けると3つに分類することができます。

宅配クライシスの原因

宅配業の人手不足


よく運送会社の事務所やトラックなどに従業員募集の貼り紙がしてあるのを見たことがあるかと思いますが、大手の運送会社は宅配をする社員、ドライバーが現時点で不足状態なのです。

宅配便も荷物番号をインターネット上で入力すれば、今どの当たりに荷物が存在し、いつごろの配達になるのか、または配達日時の変更などもできるようになり、昔よりも利便性が向上しました。

しかしながら宅配ドライバーはそのサービスの向上や増加する物流量により個人にかかる業務負担が大きくなり、中には一日のうちに全く休憩できていない、というドライバーも存在するようになりました。

そのような激務が巷の噂となり、宅配ドライバーの仕事は辛いという印象を与えてしまったためなかなか理想の人員数を確保することができなくなり、今後人員の不足が続くと現在働いている宅配員たちの離職率も上がる可能性があるのです。

ネット通販の伸びによる荷物量の増加

2013年の時点で通販業界は約11兆円規模と言われており、1年間の配達荷物数はおよそ36億件もありました。

その件数の半分近い約40%をヤマト運輸が配達しており、当時のヤマトのセールスドライバーは5万人ほどと言われているため、単純計算すると1人のドライバーが1年で72,000件もの宅配をしていたということになります。

ネット通販は顧客の信頼を得て、さらにサービスも向上し購入者を増やし続け、近年は国外からもネット通販で購入する人も増えてきました。

そして最近は個人でも簡単にネット通販のお店を作ることができ、オークションサイトなどで個人間の取引を行う人も増え、今後も利用者や取扱商品は増加し続けると予想されます。

現時点でもドライバー一人あたりの配達荷物数が過剰になっているため、従業員一人あたりの宅配数を軽減させることが急務なのです。

送料サービスの負担

最近は全国一律送料無料の通販商品をよく見かけるが、この負担も宅配業の首を締めている原因の一つとなっています。

宅配料金のコストの多くは配達するスタッフの人件費が占めているのですが、かつてはずっと料金が改定されず配達する荷物の数だけが増えてきたため、スタッフの賃金はあまり向上せず、忙しさばかりが増すようになってしまいました。

また、昔に比べて再配達、時間帯サービスなど配達日時の指定も細かくできるようになり、より配達スタッフへの負担が大きくなっています。

しかしながらヤマトなど大手の運送会社は料金の値上げを行いませんでした。

物量が多くなれば送料が安くなるのが当然だという通販企業からの厳しい注文がかつてはありましたが、運送会社側はスタッフの激務により配送料を見直すしかなくなったのです。

宅配クライシスの解決方法

宅配料金の値上げ


かつてネット通販が普及し始めたばかりの頃は運送会社側も宅配の荷物が増え自社が潤うという考えだったのですが、予想以上の通販業の伸びによる宅配業者の人員不足により長年据え置かれていた基本運賃の値上げに踏み切ることに決めたのです。

2017年10月よりまず宅配最大手のヤマト運輸が値上げに踏み切り、その後2017年11月より佐川急便が、2018年3月より日本郵便が宅配便の運賃の値上げを行いました。

値上げをすることにより運送会社の人件費も増やすことができ、現在のドライバーの賃金の向上や、新たな人材の確保に回す予算を増やすことができます。

送料の値上げに伴い通販業の売上が低下するのではないかとの懸念もありましたが、宅配ドライバーの激務、人員不足の噂は予想以上に世間に広がっており、消費者は送料値上げに対し賛成であるという意見が多く、各運送会社の運賃値上げは成功であったと言えます。

今後さらに通販業が伸びれば宅配ドライバーの人員確保の為、さらに送料が値上がることが予想されます。

宅配方法の変革

かつては宅配ドライバーが1点1点顧客の玄関に伺い荷物を届けていましたが、今後のドライバー不足という宅配クライシスを軽減させるため、宅配方法自体の見直しも進んでいます。

大手通販会社が中心となり受け取りが24時間できるコンビニへの配達や、駅の構内などに通販商品専用の受け取りロッカーを設置するなど宅配ドライバーの作業軽減と顧客の利便性を向上させる宅配方法の普及に努めています。

通販大国である中国では既に宅配ロッカーの設置が急ピッチで行われており、現在何万箇所もの設置が完了しています。

日本でも都心の駅構内などを中心に楽天が「楽天BOX」という個人の受取専門のロッカーを設置し始めていますが、日本国内では2018年7月現在ではまだ30ヶ所以内にとどまっています。

日本郵便を利用した配送に使用できる郵便局内にある「はこぽす」という宅配ロッカーサービスなども徐々に広まりつつありますが、今後はどの通販で購入しても、どの運送会社でも使用できるような宅配ロッカーが設置されると予想されます。

また楽天やヤマト運輸などが手を組み、運搬用のドローンや自動運転のトラックなどスタッフを必要としない物流の開発を進めており、将来訪危機になると予想される宅配ドライバーの人員不足を補おうとしています。

おわりに

2016年度の日本国内での荷物の宅配数はおよそ40億個と右肩上りとなっており、さらにその約15%が留守だったため再配達になっています。

再配達の申請がスマホや電話ですぐできてしまう便利な世の中になりましたが、ネット通販の宅配増加も相まってドライバーたちの労働環境は悪化し続けています。

企業側での宅配クライシスに対する改善はもちろんのこと、荷物を受け取る消費者側もなるべく再配達が出ないように配慮するなど協力をすることによって、宅配クライシスを軽減させる手助けができるでしょう。

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角田和樹
上場企業であるディーエムソリューションズ株式会社の物流関連サービスで15年間、営業やマーケティング、物流企画など様々なポジションを経験。 現在は物流・発送代行サービス「ウルロジ 」のマーケティング全体設計を担う。通販エキスパート検定1級・2級を保有し、実際に食品消費財のEC事業も運用。ECノウハウに対しても深い知見を持ち、物流事業者としてだけでなく、EC事業者の両面からnoteウェビナー等での情報発信を行う。